技術、支持体、ノイズ
『グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)』を読んでいて、重要と思われる箇所があったので引用。
リルケの解剖学的に正確な言葉によれば、「乳飲み子(哺乳類の)」のときにはそこにはすき間があいていて、後になって前頭骨と頭頂骨が縫合することでそのすき間がふさがる箇所に、痕跡もしくは軌道もしくは溝が出現する*1。脳の覆いである頭蓋骨に脳のなかからエクスナーとフロイトのいう軌道があたかも投影されたかのように、冠状縫合のところに
リアルなものの書字*2が、素人の目にもはっきりそれと見分けられたのである。(中略)フォノグラフが存在するようになってからは、主体のないエクリチュールというものが存在する。(中略)解剖学的にはただもう偶然というしかないもののうえにグラモフォンの針を置いていけないという理由はなにもない。それはむろん文字どおりの逸脱であり、これを提案する言葉じたいがおののいている。(中略)冠状縫合をレコードよろしく再生してみたらでてくるもの、この名もなき始原のノイズ、この楽譜なき音楽は、頭蓋骨が死者を呼び出す儀式に使われるなどということよりも、よほど奇怪なものである。(p.110-112)
これはもうかなりナイーブなロマン主義的夢想に過ぎないんだけど、この夢想が現代美術におけるレディメイドや文学におけるシュルレアリスムやバロウズのカットアップ、心霊写真やホラーやSF映画、そして何よりも現代音楽におけるケージやクセナキスの美学*3に通じている。手紙や死体や密室や凶器といった非精神的なものの囁きを聞く必要があるミステリー、サイバースペースや宇宙工学やドラッグ体験を足懸かりに飛翔するSFなどの文学*4にもこの主の夢想は当然必要だろう。出典不明なのでこれから調べたいんだけど、ベンヤミンの言ったらしい「世俗的な啓示」というのはこの夢想を指すのではないだろうか?インコミ58号の東・稲葉対談で語られていた環境工学的な近未来の美学において重要なのはたぶんこの主の夢想なんじゃないだろうか。
というようなことを、サイボーグ・ロックとか言ってた故hideのことを考えながら思っていた。
Psy-clone~hide electronic remixes~
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↑hideの電気胡瓜。