『二次元美少女論』読んでます

アイドルに触れた箇所が面白かったので引用。

このような芸能界とアイドルとエロス、という視点を押し進めて作られたエロゲーの到達点に『WHITE ALBUM』(1998)が存在する。このゲームでは、最初から、ゲームのプレイヤーに尽くしてくれるやさしい彼女・森川由綺がアイドルであるという設定がなされている。つまり、性行為を実行するターゲットを由綺に選択しない場合、ゲームを展開させるためには、すり寄ってくる彼女を邪険に扱いながら(優しくしているとイベントが発生しないシステムになっている)、いろんな女の子を物色しなければならない「浮気系ゲーム」であり、はまればはまるほど心が痛くなる厳しいエロゲーであった。また登場する美少女キャラは、由綺のライバル的アイドルとマネージャー以外は、先輩、後輩、幼なじみという黄金パターンであり、主人公の通う大学がゲームの主な舞台に設定されていることを考えれば、物語は「アイドルと芸能界」の部分を抜きにしても成立してしまっている。思わせぶりな芸能プロ社長・緒方英二によってかろうじて芸能界臭を保っているものの、結局は通常のノベル系エロゲー(エロシーンは少ないが)に終始しているという印象がある。いいかえれば、「アイドルと芸能界」というシチュエーションは、単にゲーム世界の表面上の差別化を図るラベルの役目しか期待されなくなってしまったのである。
WHITE ALBUM』が発表された98年はまた、冒頭に述べた『PERFECT BLUE』が制作された年でもある。邪険にされて、無視されて、捨てられた、あるいは、つけ回されて、持ち帰られて、犯されて、捨てられた「ヴァーチャル・アイドル」は、この年をもって、死滅したかにみえた。
あらゆるメディアで死に絶えつつあったアイドルという記号が、世紀末になって突然復活したかのごとき印象を与える存在がクローズアップされた。もちろん、オーディションなどの楽屋裏まで暴露しながら始まったプロジェクト「モーニング娘。」ではない。
それは、いわゆるネットアイドルの登場である。自身のHPによって、ネット上に展開するネットアイドルは、大きく二種類に区分できる。1つは自身の内面的な部分までを日記などの形式で提示し、共感を深めようとするタイプ。こちらは、掲示される写真なども含めて、ナチュラルかつ自然体なテイストを持っている。もう1つが、外見上での自分を客体化し、加工して、別次元の自分を表現しようとするタイプ。
(略)
80年愛中期以降、少しずつ明確になっていった「アイドル」という「つくりもの」への嫌悪感は、いわば幻想であることを自覚できる非現実ではなく、より現実的な非現実への逃避を望みはじめたアイドル受容者層の意識変化を象徴しているのである。

「二次元美少女」をモチーフとしている本書だが、おそらくその限定ゆえに、三次元の対象に対してこのようなことを書けたのだと思われる。この本は、とかく資料的価値ばかりが評価されている傾向にあるし、もちろん資料的価値は否定できないのだが、全体を俯瞰している人間だけがもつジャンル横断的な「見識」が込められている。
同様にジャンル横断的な「見識」を持つ永山薫エロマンガ・スタディーズ』と併せて読みたい。

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